AI が攻撃の参入障壁を下げる:ASEC が追跡した ARTEX インフラ
最近注目されている ARTEX も、この流れを示す事例です。ARTEX は、LLM(Large Language Model) を基盤とし、複数の AI Agent がペネトレーションテストに参加するオープンソースのフレームワークです。
AhnLab SEcurity intelligence Center(ASEC) は10月1日、ARTEX の機能に加え、実際にインターネット上に公開されている関連インフラを追跡し、レポートを発表しました。この分析では、ARTEX インスタンスがホストされている約600の追加 IP を確認しました。また、一部のインフラでは、別の AI ベースのオフェンシブセキュリティプラットフォームである CyberStrikeAI が併せて運用されている事例も確認しています。
本記事では ASEC の分析を基に、ARTEX がどのようなツールなのか、関連インフラで何が確認されたのか、そして AI による攻撃の自動化がサイバー脅威の環境にどのような変化をもたらし得るのかを見ていきます。
複数の AI Agent がペネトレーションテストを行う ARTEX
ARTEX は、GitHub ユーザーの Autumn-27 が公開した、LLM ベースのオープンソースの自律型ペネトレーションテストフレームワークです。
複数の AI Agent が役割を分担し、資産の探索や脆弱性の特定・検証など、ペネトレーションテストの工程を計画・実行するよう設計されています。必要に応じて、ユーザーが実行過程に介入することもできます。
ARTEX 自体を悪意のあるツールと見なすことはできません。公開されたオープンソースプロジェクトであり、正当なセキュリティ研究やペネトレーションテストにも利用できます。
ただし、注目すべきなのは、LLM や AI Agent が既存のセキュリティツールや攻撃技術と組み合わさり、ペネトレーションテストの複数の工程を自動化できる点です。
ASEC が確認した約600の ARTEX 関連 IP
ASEC は ARTEX の特徴を手掛かりに、インターネット上に公開されている関連インフラを追跡しました。
ARTEX インスタンスがホストされている IP を起点に関連インフラを分析した結果、約600の追加 IP アドレスを確認しました。
ただし、確認された IP のすべてを攻撃インフラと判断してはいけません。ARTEX は誰でも構築できる公開オープンソースプロジェクトであり、正当なセキュリティ研究やテストの環境が含まれている可能性もあります。
そのため、個々の IP の存在だけで脅威かどうかを判断するのではなく、どのようなツールが併せて運用されているか、周辺のインフラとどのような関連があるか、実際の脅威活動につながっているかなど、文脈も含めて分析することが重要です。
ARTEX とともに見つかった CyberStrikeAI
ASEC は、ARTEX 関連インフラの分析過程で、もう一つの特徴を確認しました。同一の IP で、ARTEX と CyberStrikeAI のサービスが併せて公開されている事例も多数確認されています。
CyberStrikeAI も、AI を基盤とするオープンソースのオフェンシブセキュリティプラットフォームです。資産の探索に加え、セキュリティツールやワークフローの自動化、攻撃チェーンの分析、WebShell や C2(Command & Control) の管理などの機能を提供します。
ASEC の分析では、二つのプロジェクトが中国語圏のセキュリティコミュニティを中心に共有され、広まっている状況も確認されました。
ただし、同じ IP で二つのプラットフォームが見つかったという事実だけでは、特定の攻撃組織や同一の脅威アクターが運用していると断定できません。
重要なのは、異なる AI ベースのオフェンシブセキュリティプラットフォームが、実際のインターネット上のインフラで併せて運用されている事例が観測されていることです。
ARTEX が示す AI ベースの攻撃の変化
ARTEX の事例で注目すべきなのは、特定のツール一つではありません。サイバー攻撃の過程で AI が担える役割が広がっているという変化です。
LLM は単なるコード作成や情報検索を超え、攻撃計画の策定、セキュリティツールの選択と実行、結果の分析、作業状態の維持、Agent 間の情報共有など、攻撃のさまざまな段階に利用され得ます。
AI が熟練した攻撃者の判断を完全に代替する段階には、まだ至っていません。しかし、各攻撃段階で求められる専門知識や繰り返し作業を AI が補助すれば、攻撃に必要な技術的熟練度が下がる可能性があります。
つまり、未熟な攻撃者にとっては攻撃の参入障壁を下げ、熟練した攻撃者にとっては、自動化によって攻撃の速度と規模を拡大する手段になり得ます。
重要なのは ARTEX という一つのツールではなく、AI が攻撃の技術的な参入障壁を下げているという変化です。
個々のツールよりも「つながりのある脅威」に目を向ける
ARTEX のように、正当なセキュリティ研究と攻撃の双方に利用できるデュアルユース(Dual-use) ツールは、特定のシステムで見つかったという事実だけでは、脅威かどうかを判断するのが困難です。
そのため、新たな攻撃ツールの登場だけでなく、どこで運用されているか、どのようなインフラやツールとつながっているか、実際の脅威活動に結びついているかを継続的に追跡することが重要です。
特に、AI による攻撃の自動化が広がれば、攻撃者は既存のツールや技術をより素早く組み合わせて利用できます。これに対応するうえでも、個々の IOC の確認にとどまらず、インフラ、挙動、ツールの相互関係と文脈を分析する Threat Intelligence が必要です。
個人情報流出後の2次攻撃にも注意
最近、個人情報やアカウント情報の流出事故が相次いでおり、流出した情報を悪用するフィッシングやスミッシングなどの2次攻撃にも注意が必要です。
攻撃者は氏名、電話番号、メールアドレスなどを利用して実在する機関や企業になりすまし、「個人情報流出の確認」「被害の補償」「アカウントの保護」などを口実に、偽サイトへのアクセスや悪意のあるアプリのインストールを促すおそれがあります。
アンラボは、個人情報流出後に起こり得る2次被害を防ぐため、不審なリンクをクリックしないこと、公式の窓口で事実を確認すること、アカウントごとのパスワード変更や MFA の適用など、主な対策を案内しています。
▶ [セキュリティ勧告] 最近の個人情報流出事故を悪用したフィッシング・スミッシングに関する注意喚起
[セキュリティ勧告] 最近の個人情報流出事故を悪用したフィッシング・スミッシングに関する注意喚起
.個人情報流出事故を悪用したフィッシング・スミッシングに関するセキュリティ勧告
AhnLab TIP で確認する ARTEX の脅威インテリジェンス
ASEC は ARTEX のような新しい AI ベースのツールだけでなく、関連インフラや脅威活動も継続的に追跡・分析しています。
今回の分析で確認された ARTEX のホスティング IP などの関連 IOC は、AhnLab TIP で確認できます。
AhnLab TIP は、IOC をはじめ、脅威アクター、攻撃キャンペーン、マルウェア、脆弱性、関連インフラなど、多様な Threat Intelligence を提供します。これにより、個別の脅威情報の確認にとどまらず、異なる情報同士の関連性や脅威の文脈を把握できます。
AI が攻撃の速度と自動化の水準を高めるなか、サイバー脅威の環境も急速に変化しています。
新しい攻撃ツールを知るだけで終わらず、関連インフラと脅威のつながりを継続的に追跡すること。これが、急速に変化する攻撃環境で Threat Intelligence が必要な理由です。