ARTEX の進化:アンラボが追跡した AI ベースのペネトレーションテストインフラ
AhnLab SEcurity intelligence Center(ASEC) は10月1日、LLM ベースの自律型ペネトレーションテストツール ARTEX が運用されているインフラを追跡し、その分析結果を公開しました。
AI が攻撃の参入障壁を下げる:ASEC が追跡した ARTEX インフラ | アンラボ
その後も関連インフラの追跡を続けた結果、ARTEX とともに AI API Gateway、アタックサーフェスマネジメント(ASM)、ペネトレーションテストフレームワーク、C2 など、多様なサービスやツールが運用されている環境を追加で確認しました。
特に、インターネット上に公開された ARTEX v2 も新たに確認されました。ARTEX v2 は、中央の Planner が複数の Worker Agent を調整する構造を備え、従来の自律型ペネトレーションテストツールから、複数の Agent によるセキュリティテスト環境を統合的に調整・管理するプラットフォームへと発展しています。
本記事では、ASEC が追加で確認した ARTEX 関連インフラと ARTEX v2 の特徴を通じて、AI ベースのペネトレーションテストツールがどのように進化してきたかを見ていきます。
ARTEX インフラで追加確認された攻撃・セキュリティツール
ARTEX は、GitHub で公開されている LLM ベースの自律型ペネトレーションテストツールです。複数の AI Agent を使い、資産の探索、脆弱性のチェック、攻撃の工程を自動化できるよう開発されました。
ASEC は前回の分析後も、ARTEX の特徴を基に関連インフラの追跡を続けました。今回は、特定したインフラで外部に公開されている Web サービスを追加で分析し、どのようなツールやサービスが運用されているかを調べました。
分析の結果、ARTEX に加え、AI API Gateway、アタックサーフェスマネジメント(ASM)、ペネトレーションテストフレームワーク、C2、インフラ管理ツールなど、多様なサービスが確認されました。
確認された Web サービスのうち、ARTEX の自律型ペネトレーションテストコンソールが特定されたシステムは394件(46.46%) でした。続いて、Sub2API - AI API Gateway が252件(29.72%)、アタックサーフェスマネジメントツールの Scope Sentry が22件(2.59%)、CyberStrikeAI が15件(1.77%) のシステムで確認されました。
| Web サービス | 主な機能/分類 | 確認件数 | 割合 |
|---|---|---|---|
| ARTEX | AI ベースの自律型ペネトレーションテスト | 394 | 46.46% |
| Sub2API | AI API Gateway | 252 | 29.72% |
| Scope Sentry | アタックサーフェスマネジメント(ASM) | 22 | 2.59% |
| CyberStrikeAI | AI ベースのペネトレーションテスト | 15 | 1.77% |
| ARL-Next | 資産探索/ASM | 4 | 0.47% |
| LunaFox | アタックサーフェスマネジメント(ASM) | 1 | 0.12% |
| Acunetix | 脆弱性スキャナー | 1 | 0.12% |
| MultiC2 | C2 | 1 | 0.12% |
| Mythic | C2/レッドチーム | 1 | 0.12% |
[表] ARTEX 関連インフラの分析で確認された主な Web サービス
※上記の数値は、ARTEX に関連する特徴を基に特定したインフラのうち、各 Web サービスが確認されたシステムの数です。これらのシステムがすべて攻撃や悪意のある目的で運用されていることを意味するものではありません。
特に、ARTEX 以外にも、AI API Gateway である Sub2API が多数確認されました。また、一部のシステムでは、Scope Sentry や CyberStrikeAI をはじめとする、ASM、ペネトレーションテスト、C2 関連のツールも特定されました。
これは、実際のインターネット環境で、ARTEX がさまざまな AI ベースのツールや、従来の攻撃・セキュリティツールと併せて運用されている事例があることを示しています。
ただし、同じシステムに複数のサービスが存在するという事実だけでは、共通の運用主体を特定したり、悪意のある目的で使われていると判断したりすることはできません。分析の過程では、インフラ管理プラットフォーム、教育サービス、商用アプリケーションなど、ARTEX との直接的な関連が確認されていない一般的な Web サービスも特定されました。
一部のシステムは、セキュリティ研究者やペネトレーションテストの実施者が運用している可能性や、多目的サーバーまたは共有インフラとして使われている可能性も考慮する必要があります。
CyberStrikeAI との併存を追加分析でも確認
ARTEX 関連インフラでは、CyberStrikeAI が併せて運用されている事例も再び確認されました。
CyberStrikeAI は、分析対象のうち15件のシステムで確認されました。また、一部のシステムでは、Mythic、MultiC2、Acunetix など、ほかのセキュリティ・攻撃関連ツールも特定されました。
CyberStrikeAI は、AI を利用して資産の探索、セキュリティツールやワークフローの自動化、攻撃チェーンの分析、WebShell や C2 の管理などを支援するオープンソースプラットフォームです。
しかし、こうした併存だけでは、各プロジェクトの開発者間の関連性や、共通の運用主体を特定することはできません。
ASEC が注目しているのは、特定の攻撃組織との関連性ではありません。ARTEX とともに、偵察、脆弱性の探索、ペネトレーションテスト、侵入後の活動などを支援し得る多様なツールが、実際のインターネット環境で観測されている点です。
ARTEX v2、「Agent Security Workbench」へと進化
今回の追加分析で特に注目すべきなのは、インターネット上に公開された ARTEX v2 のインスタンスが確認されたことです。
ARTEX v2 は、従来のコンソールよりも構造化された複数の Agent の実行環境を提供し、インターフェースでは ARTEX を「Agent Security Workbench」として紹介しています。
確認された環境では、中央の Planner が複数の Worker Agent を調整します。各 Agent の実行状態と動作時間を確認できるほか、探索経路、特定された資産、証拠やトラフィックの収集、ツールの実行なども、それぞれ独立した構成要素として管理します。
また、共有 Workspace のデータとレポート、MCP(Model Context Protocol) との連携、再利用可能な Skills、Agent 設定など、複数の Agent の作業を支援する機能も提供します。
実際に完了したテスト作業でも、中央の Planner が複数の Worker Agent を同時に管理する形が観測されました。
このことから、ARTEX v2 は、個々のペネトレーションテスト作業を自動化するだけのツールを超え、複数の Agent の作業、ツール、データを一つの環境で調整・管理するプラットフォームへと発展していることが分かります。
[図] ARTEX v2 の複数の Agent の実行・管理画面
AI ベースのペネトレーションテスト、「自動化」から「Agentic」へ
ARTEX v2 の変化は、セキュリティテストの分野で AI が担う役割が、どのように広がっているかを示しています。
従来は、LLM によるコード生成や脆弱性情報の検索など、個々の作業を補助する使い方が中心でした。一方、Agent ベースの環境では、目標に沿って作業を計画し、複数の Agent に役割を割り当て、外部ツールを実行して、その結果を次の作業に使う形へと広がる可能性があります。
ARTEX v2 で確認された、中央の Planner と複数の Worker Agent からなる構造も、こうした変化を示す事例です。
つまり、AI の役割が、個々の作業の支援・自動化から、複数の Agent やツールを調整する方向へと広がっているのです。
この変化が直ちに完全自律型のサイバー攻撃を意味するわけではありません。実際の攻撃には、依然として人の判断や専門性が必要な領域があります。
しかし、繰り返しの手順を自動化するための技術的な障壁が下がり、複数のツールや Agent を連携させる環境が発展するほど、攻撃者は従来より多くの作業を素早く実行する可能性があります。
ARTEX で注目すべき変化は、単なる AI の活用を超え、複数の Agent とセキュリティツールを統合的に調整する方向へ進んでいることです。
AI ベースの攻撃・セキュリティツールが動くインフラを、なぜ継続的に追跡すべきか
今回の分析では、ARTEX 関連インフラにおいて、AI ベースの攻撃・セキュリティツールをはじめ、性質の異なる多様なサービスが確認されました。
そのため、ARTEX や特定のツールが存在するという事実だけで、そのシステムを悪意のあるものと判断したり、確認されたインフラ全体を一つの脅威アクターや組織に帰属させたりすることは適切ではありません。
一方、ARTEX が単なる概念実証(PoC) や実験段階にとどまらず、インターネットからアクセス可能な実際のインフラに展開され、多様な AI ベースのツールや従来の攻撃・セキュリティツールと併せて運用されている事例が確認されている点には、注目する必要があります。
特に ARTEX v2 で確認されたように、AI ベースのペネトレーションテストフレームワークは、自律的な作業計画、複数の Agent による実行、外部ツールとの連携などを支援する方向に機能を広げています。
ASEC は、こうした活用範囲が広がるほど、関連インフラやツール、実際の脅威活動の関係を継続的に追跡・分析することが重要になると見ています。
AhnLab TIP で確認する AI ベースの脅威インテリジェンス
ARTEX の事例で重要なのは、特定の AI ツールの機能だけを把握することではありません。
どのインフラで運用され、周辺にはどのようなツールやサービスがあり、実際の脅威活動とどうつながっているのかを、継続的に追跡することが重要です。
ASEC は ARTEX をはじめとする AI ベースの攻撃・セキュリティツールと関連インフラを継続的に分析し、分析結果や IOC など、詳細な Threat Intelligence を AhnLab TIP を通じて提供しています。
AhnLab TIP では、IOC をはじめ、脅威アクター、攻撃キャンペーン、マルウェア、脆弱性、関連インフラなど、多様な脅威情報を確認できます。
AI が個別作業の支援から、複数の Agent やツールを調整する方向へと発展するなか、変化するインフラを継続的に追跡し、その関連性と文脈を把握する Threat Intelligence の重要性も、さらに高まっています。