顔認証技術の熾烈な競争、先頭を行くのは?
本レポートは、アンラボコリアより発表された内容を翻訳したものです。
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今年の初め、中国で、ある殺人犯の逮捕の情報が伝えられて話題となった。これが話題になった訳は、犯行それ自体ではなく、逮捕された過程のためだった。犯人は、2000 年の初めに雲南省で自分の男友達を殺害した女だったが、犯行後すぐに逃走したこの女は、その後、広州や深センなど中国各地を転々としながら、偽名を使って警察の追跡を逃れ続けた。ところが、10 年以上にわたって続いたこの女の逃避生活は、中国が 2012 年以降、本格的に開発してきた顔認証システムによって終止符が打たれたのである。今年になって犯人が上海を旅行した折、高速道路の案内所に設置された顔認証機能付きの監視カメラによって撮影され、直ちに身柄を確保された。英国デイリーメールの報道によると、中国で過去 7 ヶ月間に高速道路に設置された顔認証システムを使って 40 人が検挙されたという。
この例からもわかるように、現在、中国の顔認証技術は、世界最高水準だといわれている。急速に成長を遂げる中国の情報通信技術、とりわけ顔認証技術が急成長した背景と、このことが私たちにどのような示唆を与えてくれているのか探ってみたい。
フィンテック (Fintech/financial technology) やセキュリティなどのニーズから、ここ数年、主要国を中心に、生体認証技術の分野で競争が激しさを増している。少し前まで、生体認証技術では指紋認証が市場の大勢を占めていたが、近ごろは、顔認証に重心が移動しつつある。
「顔認証 (Face
Recognition)」 は、顔の対称的構図、顔立ち、毛髪、目の色、顔の筋肉の動きなどを分析して顔の特徴を明らかにする技術である。指紋認証に続き、顔認証の技術で競争が激しさを増す中で、現時点では、ひとまず中国が勝機を掴みつつある雰囲気だ。
中国の顔認証に関する特許公開件数は、2017 年に 900 件を突破した。監視カメラに関する特許も 530 件以上にのぼり、これは、同じ時期に米国で公開された監視カメラに関する特許 (96
件) の 5 倍以上の数である。米国の国立標準技術研究所
(NIST) が発表した顔認証アルゴリズムテストの結果では、上位 5 位までを中国の業者が独占している。
中国の顔認証技術先取り、なぜ可能になったのか?
韓国では、朝、家を出た瞬間から、退勤して夕方帰宅するまでの間に平均 150 台の監視カメラに撮影されているという (ソウルの場合)。韓国情報化振興院の 2015 年の資料によると、韓国国内に設置されている監視カメラは約 795 万台であり、1 年間に約 11% の割合で増加している点を考慮すると、昨年までに約 1 千万台の監視カメラが設置されていると考えられる。韓国の人口を 5 千万人とした場合、監視カメラ 1 台が 5 人をカバーしているという計算になる。一部では、監視カメラによる犯罪抑止効果を高く評価し、設置台数を増やしてほしいという意見もある。
それならば、韓国より人口も多く、土地も広い中国ではどうだろうか? ある台湾の新聞が伝えたところによると、中国は来年、1 人に対して 2 台の監視カメラが配置される予定だという。同新聞では、IT 市場調査機関
「IDC」 のデータを元に、中国のスマートシティ (Smart City) 構想に伴って、2020 年までに 27 億 6000 万台の監視カメラが設置される見込みだと伝えている。中国の人口が約
14 億人であることを考えると、1 人に対し約 2 台という計算になる。
ただし、重要な点として、中国の監視カメラは韓国の監視カメラと性格が異なる。韓国の監視カメラが犯罪抑止を目的とした防犯用であるのに対し、中国の監視カメラは監視と取締りを目的とした社会統制用である。ビッグデータとAI技術を基盤とした中国企業の顔認証技術は世界最高水準と評価されているが、それは皮肉にも中央政府の監視を手助けするためのものなのである。
「犯罪抑止 vs 社会統制」 の難しいバランス
中国のスマートシティ構想も、やはり監視カメラによる映像監視が注目すべき点であろう。中国の監視カメラは、顔認証技術を用いた歩行者情報追跡システム 「天網」 と連動している。天網は、中国政府が先端技術を活用して構築した映像監視システムであり、監視カメラに写った人の名前や年齢、性別、服装などを、AI (人工知能) 技術を用いて識別する能力を持つことがわかっている。
中国政府は、反腐敗・反犯罪システムの一環として
2015 年からこのシステムの構築を進めてきた。動いている人を追跡・判別する監視カメラと犯罪容疑者データベースを連動させて犯人をスクリーニングするというものであり、AI 監視・追跡システムである天網の画面を見ていると、街路に設置された監視カメラで撮影された人の上に、AI が分析した性別や年代などの情報がタグのようにリアルタイムで付けられる。中国政府はさらに、これに公安のスマートグラスを結合させており、このスマートグラスは、0.1 秒間に最大 1 万人の顔をスキャンして、個人の身元情報や犯罪手配の有無を知らせてくれる。
上海の地下鉄では、2017 年 1 月の顔認証セキュリティシステム導入後、3 ヶ月間で 567 人の犯人を検挙したと明らかにしている。福建省のアモイでは、顔認証システム導入後、バス車内でのスリの被害が
30% も減ったと伝えられている。
日常生活に根付いた顔認証技術
犯罪抑止や社会統制の目的以外でも、既に顔認証技術は急速に人々の間に根付き始めている。
Appleは、昨年 9 月に 3D 顔認証によるロック解除機能 (Face ID) を搭載した 「iPhone X」 を発表した。一方、中国のシャオミは Apple の iPhone X より 1 日早く、業界で初めて顔認証技術を搭載した 「Minote 3」 を発売した。中国の顔認証技術は、アリババの馬雲会長が 2015 年、ドイツ・ハノーバーで開催された国際情報通信博覧会
「CeBIT」 において、「顔認証決済」 を公開したことで広く知られるようになり、現在では、銀行 ATM、学校、レストラン、鉄道駅、はては公衆トイレにまで顔認証機能が活用されている。
招商銀行、中国農業銀行などの金融機関では、一部の
ATM に顔認証機能を追加し、カードがなくても預金の引き出しが可能になっている。また、北京師範大学など一部の学校では、顔認証技術を新入生登録システム、学生寮の入館システムに導入するなど、学生の管理に活用している。また、杭州のあるレストランでは、情報端末装置で料理を注文し、顔を認証させた後、カード番号と紐付けられた携帯電話の番号を入力すれば決済が完了する。さらには、一部の公衆トイレでは、トイレットペーパーの無駄遣いを防ぐために、顔を認証させると、トイレットペーパーが
70cm だけ出てくる装置を導入している。
顔認証技術、独裁社会の引き金になるのか?
ジョージ・オーウェルの小説 『1984年』 にはビッグ・ブラザーという独裁者が登場する。ビッグ・ブラザーはテレスクリーンを通じて人々を絶えず監視しており、テレスクリーンは、しまいにはトイレにも設置される。映画 『ターミネーター』 でも、スカイネットという名の、人間の知能を超越した社会監視網が登場する。ビッグ・ブラザーとスカイネットの共通点は、人間を絶えず監視し、統制しようとするという点である。
小説や SF 映画の中のお話だと捨て置くのは恐ろしいような話ではないか。というのも、近ごろ韓国社会においても似たような状況が散見されるようになってきているからだ。上述のように、顔認証技術にはさまざまな長所がある一方で、それを憂慮する見方があることも事実である。とてつもない数の監視カメラを基盤とした中国の顔認証監視網が他の国に適用されないという理屈はどこにもない。けれど、私たちは副作用を恐れて歩みを止めるわけに行かないのも事実だ。間違いなく言えることは、技術の発展に伴って先人たちが抱えてきた苦悩は、今後も繰り返されるということであろうか。